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東京地方裁判所 昭和43年(刑わ)4333号 判決 1970年1月12日

主文

被告人奥、同会沢、同河村、同工藤、同中村、同小林、同井下を各懲役六月に、

同池原、同松井を各懲役八月に、同加藤を懲役一年に

処する。

未決勾留日数中、被告人加藤に対し六〇日を、同池原に対し二〇日を、同松井に対し八〇日を右各刑に算入する。

被告人奥、同会沢、同河村、同工藤、同松井、同中村、同小林、同井下に対し、この裁判確定の日から各二年間、右各刑の執行を猶予する。

理由

(認定事実)

第一  被告人らは、ほか一六名の学生と防衛庁本庁檜町庁舎に侵入することを共謀のうえ、昭和四三年一〇月二〇日午後九時ころ、東京都港区赤坂九丁目七番四五号同庁舎の警備員のいた正門から同庁舎一号館一階一〇七号陸上自衛隊通信団中央基地通信隊電話中隊檜町電話隊事務室内までかけ込み、もつて同庁経理局会計課長星野孝俊の看守する建造物に不法に侵入し、

第二  被告人池原は、多数の学生らと共謀のうえ、昭和四三年九月一二日午後四時三〇分過ぎころ、東京都千代田区神田神保町一丁目四番地先路上で、多数の学生らによる集団示威運動に伴う違法事犯の防止・検挙の任務に従事していた警視庁第一機動隊第四中隊長警部津金允ら指揮下の多数の警視庁警察官に対し、コンクリート片を投げつけて暴行を加え、もつて右警察官の職務の執行を妨害し、

第三  被告人松井は、多数の学生と共謀のうえ、昭和四四年四月五日午後三時五〇分ころ東京都千代田区神田駿河台三丁目一一番地所在中央大学会館裏通用門等から立ち入りを禁止されていた同大学理事長五鬼上堅磐管理にかかる同大学駿河台校舎構内の四号館、駐車場等に立ち入り、もつて人の看守する建造物に不法に侵入し、

第四  被告人加藤は、

(一)  多数の学生らが、共同して投石、殴打などにより警察官らの阻止を排し内閣総理大臣官邸などを占拠しようと企て、昭和四四年四月二七日夕刻から東京都文京区湯島一丁目五番四五号所在東京医科歯科大学内に多数の石塊、樫棒、鉄パイプなどを準備して集合したうえ引続き右集合状態を継続しつつ翌二八日午後四時過ぎころ同大学お茶の水門前付近路上に進出したところ、この間右兇器の準備があることを知つて右集団に加わり、もつて他人の身体・財産に対し共同して害を加える目的で兇器の準備があることを知つて集合し、

(二)  多数の学生らと共謀のうえ、同月二八日午後四時過ぎころ同大学お茶の水門前付近から同所聖橋下付近までの路上で、(一)のように同大学内から兇器を携行して出発した学生ら集団の制止検挙などの職務に従事していた多数の警視庁警察官に対し、多数の石塊を投げつけ、樫棒や鉄パイプなどで殴りかかり、あるいは体当りをするなどの暴行を加え、もつて右警察官の職務の執行を妨害したものである。

(証拠)<略>

(弁護人らの主張に対する判断)

弁護人は、第四の兇器準備集合は加害行為たる公務執行妨害の予備的な行為であるから、公務執行妨害罪が成行する以上兇器準備集合罪は成立しない、かりにそうでなくても両罪は牽連関係にある旨主張する。

なるほど、兇器準備集合罪は他人の生命、身体、財産に対し共同して害を加えることを目的とする犯罪であつて、この点からみると、加害行為に対する予備的性格を有することは否定できない。しかし、同罪は、二人以上の者が共同加害の目的をもつて兇器を準備し、またはその準備があることを知つて集合するという状態そのものが社会生活の平穏を害するという点に着目し、このような事態を規制することをも考慮してとくに設けられたものであると解すべきであるから、単に加害行為に対する準備的・予備的な行為にとどまるものとして評価されるべきではない。したがつて、第四の兇器準備集合罪と公務執行妨害罪とは併存するものといわなければならない(なお、兇器準備集合罪をいわゆる暴力団の事犯に限定して考えなければならないいわれはない)

また、兇器準備集合罪の右のような特質に、一般的にいつて具体的な加害行為は当初の加害目的と異なる方向に発展しあるいは単にその目的を実現するにとどまらない場合もありうることを考え合わせると、兇器準備集合とそれから発展する加害行為との間には通常手段・結果の関係があるとはいえない。したがつて、第四の両罪は併合罪の関係にあると解するのが相当である。

なお、第一の犯罪の成否については、自衛隊の性格のいかんは直接の関係がない。また、被告人らの各行為は、それぞれの意図もしくは動機によつて正当化されるものではない。

(法令の適用)

第一、第三の事実はいずれも刑法六〇条、一三〇条、罰金等臨時措置法三条一項一号(懲役刑選択)に、第二の事実は刑法六〇条、九五条一項(懲役刑選択)に、第四の(一)の事実は同法二〇八条の二・一項、罰金等臨時措置法三条一項一号(懲役刑選択)に、(二)の事実は刑法六〇条、九五条一項(懲役刑選択)にあたる。

被告人池原については第一、第二の両罪、同松井については第一、第三の同加藤については第一および第四の(一)と(二)の各罪が、それぞれ刑法四五条前段により併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、被告人池原、同松井については犯情の重い第一の罪の刑に、同加藤については刑期および犯情からしてもつとも重い第四の(二)の罪の刑に法定の加重をする。

刑法二一条(被告人加藤、同池原、同松井につき)

刑法二五条一項(被告人奥、同会沢、同河村、同工藤、同松井、同中村、同小林、同井下につき)

刑訴法一八一条一項但書(全被告人につき)

(量刑について)

犯行の種類態様、動機などを考慮するとともに、被告人らの将来の行動についての自覚を期待して、主文の刑を量定した。なお、被告人加藤については、第一の罪の公判中に第四の罪を犯したものであり、しかも第四の犯行は比較的重大であることなどの点からみて、同池原については、第二の罪の起訴後第一の罪を犯したものであり、しかも第一の犯行にあたつては主導的役割を演じていることなどの点からみて、それぞれ実刑もやむをえない。

(柏井康夫 米沢敏雄 堀籠幸男)

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